【赤旗】7月24日《主張》経済団体セミナー 財界の思い通りにはさせない
日本経済団体連合会(経団連)の夏季フォーラムや経済同友会の夏季セミナーなど、経済団体の夏の会合が相次いで開かれました。毎年恒例ですが、財界の本音が出される場でもあります。中西宏明・日立製作所会長が経団連の会長に就任して初めて開かれたフォーラムでは、一部を非公開にして、産業構造の変化への対応など「行動宣言」を採択、同友会のセミナーでは「軽井沢アピール」に消費税10%の着実な実施とさらなる税率アップなどを盛り込みました。安倍晋三政権の下で、政権との“蜜月”ぶりが強まっている中、財界のこうした動きは危険です。
▶身勝手な要求並べたてて
経団連のフォーラムでは、アメリカのトランプ政権が検討している自動車の関税引き上げや、アメリカと中国などとの「貿易摩擦」について懸念が続出したといいます。フォーラムの後記者会見した中西会長は、産業構造の変化に対応するため「変化を先取りする勝負で、われわれも遅れずやっていきたい」などと強調しました。
採択された「行動宣言」には、中西会長が唱える、規制緩和などを加速する「ソサエティー5・0」の具体化や民間経済外交の戦略的推進に加え、「民間活力」を生かした産業の競争力強化や地方行政システムの改革など、大企業本位の経済政策強化が盛り込まれました。
5月末に経団連会長に就任した中西氏は、今月さっそく政府の経済政策の「司令塔」である経済財政諮問会議の民間議員を前経団連会長の榊原定征(さだゆき)・東レ相談役から引き継ぎました。経済財政諮問会議が6月に打ち出した「骨太の方針」では、消費税率の10%への引き上げや社会保障削減などを打ち出しています。経団連も「税率10%超への消費増税も有力な選択肢」と公言しています。中西新会長の下でも、財界が政府の経済政策を牛耳る体制が続きます。
財界人が個人の資格で参加する経済同友会の夏季セミナーで採択された「軽井沢アピール」はより露骨に、「大衆迎合に流れることなく国家をガバナンスする仕組みづくり」や消費税の「ポスト10%の議論と更なる税率アップ」などを打ち出しています。消費税増税で国民が負担した税金の大半は大企業への減税に回り、多くの大企業はカネ余りでため込んでいることに反省もなく、国民に負担を押し付けるのが財界の本音です。
22日閉幕した通常国会では財界が強く要求した「働き方改革」のうち、データ偽装などが問題化した裁量労働制の拡大が削除されましたが、労働法制の「更なる改革」(「軽井沢アピール」)、裁量労働制拡大法案の「早期の実現」(日本商工会議所申し入れ)など、財界はあきらめていません。財界の動きに監視を強める必要があります。
▶安政権との“蜜月”の下で
見過ごせないのは安倍政権の下で財界との“蜜月”がいっそう強まり、財界本位の政治が進んでいることです。安倍政権の首相官邸で、今井敬(たかし)元経団連会長の親族でもある経済産業省出身の今井尚哉(たかや)氏が首相最側近(政務担当)の秘書官を務めるなど、経産官僚が大きな影響力を持っているのも、異常な大企業中心政治の表れです。
財界の政治支配の背後には経団連があっせんする巨額の企業献金があります。カネで動かす政治に終止符を打つ必要があります。
【朝日新聞DIGITAR】7月28日 刷新なき財務省人事 麻生氏、文書改ざん処分者をかばう
麻生太郎財務相は27日、財務省の幹部人事を発表し、一連の不祥事で失墜した信頼の回復を急ぐ考えを強調した。だが、陣頭指揮をとる事務次官に選んだのは、森友学園の公文書改ざん問題で文書管理の責任を問われた岡本薫明(しげあき)主計局長(57)。麻生氏自らも続投したまま、組織刷新とはとてもいえない新体制となった。
迷走3カ月、最後は大本命で決着 財務次官人事の裏側は
麻生氏は、改ざん問題で厳重注意処分を受けた岡本氏について「直接改ざんに関与したわけではない」とかばう一方、省内の要職を歴任してきた点を強調。「財務省の再生、刷新をやっていくにはふさわしい人物」と持ち上げた。
岡本氏の後任の主計局長には、改ざん問題で国会答弁などを担当した太田充理財局長(58)を充てた。岡本氏と入省同期で、「次の次官」と有力視される太田氏も処分を受けたが、次官候補の有力ポストに横滑りした。本省で改ざんの「中核的役割」を担ったとされる中村稔・前理財局総務課長は大臣官房参事官に異動となった。
一連の不祥事を受け、省内では当初、岡本氏の次官起用を見送り、主要人事の「凍結」が検討された。だが、安倍内閣の支持率が下げ止まると、次官を「本命」の岡本氏、太田氏につないでいく省内秩序を優先した人事案に練り直された。ほかの幹部はなるべく留任させる方針で、星野次彦主税局長(58)や矢野康治官房長(55)も留任。3年連続で財務官を務める浅川雅嗣氏(60)も、来年の主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の福岡開催を控え、異例の続投となった。
岡本氏は27日、記者団の取材に応じ、「(改ざんの)事実を知らなかったが、処分は厳粛に受け止めている」と発言。処分直後の昇格については「厳しい目があることは十分自覚しながら、組織の信頼回復に全力を尽くしたい」と語った。
【Newsweek】7月26日 《コラム》冷泉彰彦 水道民営化、アメリカでは実際に何が起きたか
<日本の水道民営化議論は、地方自治体が設備維持コストに耐えられないという状況から出てきたが、先行したアメリカの例を見れば、経済合理性のなかで維持コストが利用者に転嫁されることは明らか>
水道の民営化という議論が進んでいます。この民営化を含む「水道法改正案」がすでに2017年に立案され、2018年7月22日に閉会した国会でも審議されました。この国会では成立しなかったのですが、秋の臨時国会で再び審議される見通しだと言われています。
アメリカはこの水道民営化が世界でも先行した地域です。17~18世紀の開拓時代には、それぞれの入植地や市町村が水道を建設していたのですが、19世紀の後半から民営化の動きが進んだからです。
同時に広域化も進みましたが、そんな中から全米最大の「民営水道会社」であるアメリカン・ウォーター(AW)が出てきました。AWは水道と電気供給の企業として1880年代に設立され、その後1947年に水道専業に改組、現在は全米50州のうち46州に加えて、カナダのオンタリオ州でもビジネスを展開しています。
アメリカで水道民営化が進んだ事情は特殊です。広大な国土に、分散した形で入植が始まった経緯があり、バラバラに水道が建設されたのですが、個々の経営は零細でした。ですから入植後100年以上が経過して、設備の更新を進める必要が生まれたときには、市町村には負担が重かったのです。
一方で、アメリカの市町村というのは完全独立採算制で収支の透明性が要求されるため、納税者の意識は高かったのです。そこで、「民営化による広域化」か「個々の市町村による公営事業として設備投資の継続」かというと、後者はムリであって、必然的に民営化による広域化が選択されていったのでした。
もちろん大都市など規模の大きい自治体では公営も残りました。また、民営化されたとはいえ、水道というのは文字通りのライフラインですから州や市町村は水質管理や安定供給に関する監督権は有しており、とりあえず100年以上の民営化の歴史において水道供給の大破綻という事態は起きていません。
例えば、2014年にミシガン州のフリントで水道水の鉛汚染が問題になりました。これは自動車産業が繁栄していた時代の延長で「公共水道」のまま運営してきた一方で、周辺都市が準民営化に走った中で取り残されたための問題と言えます。仮の話ですが、もっと経済が回っていた時代に民営化していたら、万事うまく行っていたに違いありません。(ちなみに、このフリントの問題はまだ解決していません)
では、アメリカで水道民営化は成功しているのかというと、そう簡単な話ではありません。実際に民営化水道を経験してみると、企業によって様々な問題があることがわかります。
(中略)
日本の場合に懸念されるのは、民営化によってコストが顕在化し、それによって水道事業の破綻が早期化するという問題です。結果として、否応なしにコンパクトシティ化が進むということもあるかもしれませんが、国土のある部分について、最優先のライフラインである水道供給が破綻していけば統治の崩壊につながります。
となると、民営化しつつ相当部分の補助を公費で実施するという形になるのかもしれませんが、その場合は業者との癒着が起きないように監視体制が重要になります。その一方で、広域化を進めて効率を追求するというのは必要なことであり、現在の制度がこのまま維持できるとは思えません。
心配なのは、今回の西日本豪雨のような大災害で、水道インフラが破壊された場合です。民営の場合、リターンの期待できない修復コストの負担はしないかもしれません。では脆弱な各地方自治体の財政にその能力があるのかというと、これもないわけです。
この水道民営化法案ですが、大変に重要な問題であり、審議を尽くす必要があります。また決定後に「ご存知ですか?」などと告知をするのではなく、審議へ向けて賛否の議論を盛り上げていく必要があります。とにかく、実施可能な範囲での実務的な議論にしていかねばなりません。