【月刊『全労連』】№256(18年6月)自公政権の税制改革の現状と課題、労働者への影響―立正大学客員教授・浦野広明
(スペースの関係で、表題の論文から、消費税にかかわる部分を一部抜粋してご紹介します)
(2)消費税
消費税の欠陥は数々ある。次はその主な点である。
①生存権を無視
消費税(間接税)が直接税と根本的に違うのは、間接税は意に反して税金を取られるという点である。消費税導入までにあった料理飲食等消費税(料飲税)のような個別間接税の場合、ぜいたくしたければ高い飲料税を覚悟して高級料理を食べる、それがいやなら普通の料理でがまんするというように、個人の意思で選ぶことができた。
ところが、消費税はあらゆる物やサービスについて一律で課すので、選択の余地はない。生存権を原点とする経済的自由権の侵害をする(憲法25条、29条違反)、一律の税率は、高所得者が有利で、貧しい者が不利となる。
②輸出製造業に巨額の還付
財界・大企業は、19年10月からの消費税率10%引き上げを確実に実施するよう安倍政権に求めている。それには訳がある。消費税は輸出製造業に巨大な利益をもたらすからである。消費税・地方消費税の納税額は原則として(課税売上-課税仕入)×8%で計算する。ところが、輸出した課税売上の消費税率は0%となっており消費税がかからない(消費税法7条)。しかし、0%の課税売上に対応する(課税仕入×8%)の金額は全額還付(控除)される。たとえば、トヨタ自動車の2017年3月期の単独決算によれば、消費税を1円も払うことなく4046億1000万円の還付を受けている。(以下略)
③景気条項廃止
消費税増税法の成立(12年8月10日)によって17年間上がらなかった消費税率が5%から8%に上がった。しかし、単純に税率の引上げを認めたのではなく、「消費税率の引上げ実施前の経済状況を勘案して税率引上げを停止する」(増税法附則18条3項、いわゆる「景気条項」)を置いていた。安倍首相は14年11月18日の記者会見で、消費税10%への増税(15年10月)を17年4月まで、先延ばしすると発言した。この先延ばしは「景気条項」の適用であるから法改定を要せずに実施できた。ところが、安倍自公政権は、15年度税制改定で「消費税増税法」を次のように改悪し、消費税導入から27年間存在していた「景気条項」投げ捨てる暴挙にでた。
「消費税率(国・地方)の10%への引上げ等の施行日を平成29年4月1日とする」
「附則第18条第3項(生存権配慮規定)を削除する」
自公政権は景気条項を削除したので、消費税率10%への引上げを17(平成29)年4月から19年10月に再延期する税制改正関連法を成立させた(2016年11月18日)。
④インボイス(消費税内容記載伝票)
18年度税制大綱は、消費税10%への引上げを19年10月1日に確実に実施し、軽減税率制度について措置等を講ずるとしている。複数税率の場合、請求書等に適用税率・税額の記載を義務付けたもの(インボイス)がなければ適正な仕入額の計算は困難である。
インボイスとは適格請求書発行事業者の氏名や名称、登録番号、取引内容、適用税率、消費税額などが記載された請求書や納品書、領収書などの書類のことである。商品ごとに税率と税額のほか、事業者ごとに割り振る登録番号を明記する必要があり、中小業者にとっては煩瑣な作業となる。いつわりの交付には罰則がある。(以下略)
⑤世界一高い食料品の消費税
消費税の税率は、ヨーロッパの国々と比べて低いといわれるがそれは偽りである。日本の消費税は、8%に上げる前の5%の税率であっても、イギリスの国税収入に占める割合と比較しても遜色がない。食料品などの生活必需品と高級品・贅沢品と同じ税率をかける国などないのである。その結果日本の消費税はイギリスより国税収入に占める割合が高い。(以下略)
【赤旗】5月17日《主張》1~3月期GDP―マイナス成長が破綻浮き彫り
昨年末まで8四半期(2年間)連続のプラス成長だと、安倍晋三政権が「アベノミクス」の成果のように宣伝してきた国内総生産(GDP)の伸び率が、今年の1~3月期はマイナスになったことが明らかになりました。個人消費など国内需要が軒並み落ち込み、輸出から輸入を差し引いた純輸出がかろうじてプラスです。大企業のもうけを最優先し、国民生活を痛めつけてきた「アベノミクス」の破綻は明らかです。国民の暮らしを立て直さない限り経済再生は実現しません。来年10月からの消費税率の8%から10%への引き上げなどもってのほかです。
▸長期化する「消費不況」
四半期別では9期ぶりにマイナスとなった1~3月期のGDPは、実質で前期比0・2%落ち込みました。同じペースが続くとした年率換算では0・6%の減です。GDPの約6割を占める個人消費が節約志向などでマイナス0・001%、住宅投資が同2・1%、設備投資が同0・1%など、内需は軒並みマイナスです。輸出が0・6%増え、輸入を差し引いた純輸出が0・1%のプラスです。
1~3月期がマイナス成長となった結果、2017年度の実質GDPは16年度に比べ1・5%のプラスにとどまりました。安倍首相が12年末に政権に復帰して以来、実質GDPは13年度2・6%の伸びとなったものの、14年4月に消費税を5%から8%に増税した後、14年度は0・3%のマイナスとなり、その後も15年度1・4%、16年度1・2%、17年度1・5%と低い伸びが続いています。目標にした3%の成長には程遠い限りです。「アベノミクス」が、大企業は潤しても国民の雇用や所得は増やさず、消費税の増税が加わって、「消費不況」が長引いているためです。
総務省が発表している家計調査報告でも消費税増税後ほとんどの月で消費支出はマイナスが続いています。3月も実質0・7%減と2カ月連続の落ち込みでした。
安倍首相は求職者に対する求人の割合を示す有効求人倍率が上昇してきたことで雇用の改善を宣伝しますが、増えるのは賃金の安い非正規の労働者が中心で、安定した雇用も所得増も実現しません。国会図書館調査・立法考査局の最近の分析も、一部で「人手不足」も言われるほどなのに賃金が伸び悩んでいる「謎」は、非正規雇用の増加が背景にあると指摘しています。
最近相次いで発表されている企業の3月期決算を見ても、トヨタなど大企業は「アベノミクス」で大もうけを上げています。輸出や海外投資で稼いだ利益は「内部留保」などの形でため込まれ、雇用の改善や賃上げに回っていません。大企業の横暴を抑え、暮らしを良くすることが急務です。
▸消費税の増税は中止を
「アベノミクス」は大胆な金融緩和や財政支出、大企業中心の「成長戦略」が3本柱ですが、黒田東彦日銀総裁と一体で進めた金融緩和はカネ余りを深刻にしただけで物価目標さえ「撤回」に追い込まれ、財政は悪化、大企業の海外進出で「成長戦略」もうまくいかず、今や“総破綻”の状態です。
「アベノミクス」を直ちに中止し、消費や雇用など暮らしを立て直す政策に抜本転換すべきです。「消費不況」を深刻化する消費税の増税など絶対許されません。