【The PAGE】2016年5月19日 消費増税と新聞の軽減税率 朝日社説の変節ぶり <少し古いですが、ご参考に>
来春に予定される消費税の再増税をめぐり、増税延期に異を唱えた朝日新聞5月16日朝刊の社説がひんしゅくを買っている。その背景にあるのは、新聞の軽減税率対象入りという「特権」を手にした挙げ句の変節ぶりだ。
「増税延期か否かの議論が最終局面とされる今、従来の朝日ファンはあの社説に反感を覚えたことでしょう。私らの間でも話題になりました。あの朝日がね……という内容でしたから」と苦笑するのは野党の衆院議員。彼はマスコミ出身で、超党派の国会議員で構成される活字文化議員連盟のメンバーでもある。
「朝日に限らず、どの新聞社も消費増税延期は避けてほしいのが本音でしょ。延期となれば、昨年末に与党間で合意した軽減税率も一から再協議を迫られる恐れがあります。最悪の場合は新聞がせっかく軽減税率品目になったのに無に帰すかもしれません」と続けた。
消費増税と新聞の軽減税率 朝日社説の変節ぶり
「『一億総活躍』社会 消費増税の支えが必要だ」――。こうした見出しが付いた問題の社説は、政府が近くまとめる「一億総活躍プラン」について「めざす方向性には多くの人がうなずこう」と持ち上げつつ、プラン実現には財源の問題などから「消費税の増税をはずせない」と訴える。
また現状の消費低迷に関して2014年の8%への増税が及ぼす影響をほとんど無視するかのような主張を展開し、再増税に二の足を踏む安倍首相の背中を押す。企業収益に陰りが見えることに加え、熊本地震が発生しても「長期的な視点に立って消費増税は予定通り実施すべき」と強調する。
思い起こせば、朝日と読売、毎日の三大紙は2011年以来、「国の借金をこれ以上増やしてはいけない」と、消費増税推進の論陣を足並みそろえて張ってきた。だが、あからさまに新聞の軽減税率対象入りという目論見を含んだ読売と毎日の増税キャンペーンとは一線を画す形で、朝日は2012年5月20日の社説では増税時の低所得者対策として「給付つき税額控除」を推していた。
その中で軽減税率については「短所は少なくない。まず、高所得者まで恩恵を受ける点だ」「何を軽減対象にするのか線引きも簡単ではなく(中略)さまざまな業界から適用要望が相次ぐのは必至で、消費税収が大幅に目減りしかねない」と否定的な見解を示す。「消費税率を10%超に上げる必要が生じた時の課題」というのが軽減税率の位置づけだった。
前出の野党議員は「底意がまる見えの読売、毎日の論調と比べ、朝日の見識やフェアな姿勢を評価する声は多かった」と振り返る。
だが昨年末、新聞が軽減対象に決まると社説のトーンは一転する。「私たち報道機関も、新聞が『日常に欠かせない』と位置づけられたことを重く受け止めねばならない」とかしこまった後、2012年5月の社説内容に絡んで釈明めいた文言を連ねながらも「しかし、10%の段階で新聞も適用対象となった。社会が報道機関に求める使命を強く自覚したい」と開き直る。筋を通して適用辞退という考えなど微塵もなかったのだろう。
そして、朝日ファンのとどめを刺すような今回の社説である。庶民の消費が冷え込む中でも、軽減対象という自らのメリットを失うまいとするかのように再増税を主張するさまは無残ですらある。
新聞労連産業政策研究会が2013年9月末に発行した「新聞2013 この山をどう登るか 最終報告書」という冊子に、当時の朝日新聞労組の組合員はこんな内容の文章を寄せている。
「多くの国民が『購読を続けたいから新聞の税率を低くしてほしい』と訴えているなら別だ。しかし、そうした声も上がらないうちに業界が(適用対象入りに向けて)動いてしまっては、どんなに正論を吐こうとも『業界のエゴ』と映るだろう」
「(新聞に軽減税率が適用された場合)新聞協会は軽減税率を認めた政府・与党に『大きな借り』をつくることになり、政治に対する『監視力』をそぐ恐れはないのか」
この筆者や朝日の記者らは、どんな思いで消費増税や軽減税率に関する社説の変化を受け止めているのだろうか。大幅な部数減が噂される中、社内は経営最優先の色合いに染まってしまったのか。
「自分たちだけ軽減税率の恩恵にあずかりながら、財政立て直しのためには再増税すべし―― と主張しても読者への説得力は極めて乏しいし、そうした建前論は通じない。8%への消費増税の影響が今も後を引く中、本当に消費者のことを考えれば再増税の主張などあっていいことではない」
元東大新聞研究所教授でマスコミ批評を手掛ける桂敬一氏は、朝日の社説「『一億総活躍』社会 消費税の支えが必要だ」を読んでそんな感想を抱いたという。(フリー記者・本間誠也)
【『消費増税の大罪』】醍醐 聡著<柏書房2012年刊>(新聞の責任に関する部分の抜粋)
「『大罪』と呼ぶべき第二の当事者は(第一は当時の民主党政府―引用者)、消費税増税を翼賛する大手マスコミである。とくに大手全国紙は、民主党政権が消費税増税法案を閣議決定した際には、『豹変して進むしかない』(『朝日新聞』2011年12月31日、社説)と弁護を買って出たうえ、消費税増税に異論を唱える者に向かっては『反対なら代替案示せ』(『毎日新聞』2012年1月7日、社説)と開き直った。
政党、専門家のあいだの論争なら、代案を添えた批判が求められる。一方、メディアは独自の取材にもとづいて国民の多面的な知見を提供し、熟議をはぐくむのが使命である。そうであれば、いまメディアに求められているのは、消費税増税以外の選択肢を示すことであろう。『代替案を示せ』という警告は、みずからに向けられるべきものだ。」(同書「はしがき」)
【朝日新聞】12月2日 閣僚のパーティー収入、購入者94%不記載 計7億円
安倍政権の閣僚が2016年の大臣在任中に開いた政治資金パーティーの収入のうち、誰が支払ったのかが分からない額の割合が94%にのぼることが政治資金収支報告書の集計でわかった。支払者が不明な金額は計7億円近くにのぼる。パーティー収入が政治活動を支える柱となっているなか、その不透明さが浮き彫りになった。
支援「寄付よりパー券」 政治資金、名前伏せる「工夫」
大臣らの倫理基準を定めた大臣規範は、「国民の疑惑を招きかねないような大規模なパーティーの開催は自粛する」としている。強い職務権限を持つ大臣の政治活動には、高い透明性が求められているためだ。
朝日新聞は、昨年1年間の大臣在任中に開かれたパーティーの収支状況を、本人の資金管理団体と政党支部の収支報告書から分析した。その結果、17人が大臣在任中に計56回のパーティーを開き、収入総額は約7億4千万円だった。
このうち、パーティー券を買った個人や企業・団体名が収支報告書に記載されていたのは計約4千万円分で、6%に過ぎなかった。56回のうち26回は、パーティー券の支払者が一切記載されていなかった。
政治資金規正法は、1回20万円を超えるパーティー券の支払者は個人や企業名などを収支報告書に記載することを義務づけている。だが、20万円以下の支払者は記載する必要がなく、総額だけが記入される。(以下略)