【全国商工新聞】11月13日 免税業者を取引から排除 消費税10%複数税率で対応せまられるインボイス(文中の図は省略)
2019年H月力ら消費税率10%実施を宣言した安倍政権は複数税率に伴い、食料品や新聞購読料は8%に据え置く一方、2023年10月からはインボイス(適格請求書等保存)方式を導入しようとしています。インボイスの導入は中小業者にどんな影響を与えるのか、元静岡大学教授で税理士の湖東京至さんが解説します。
―「軽減」税率で負担増
安倍首相は10%に引き上げる際、「食料品などは8%にするから低所得者の負担はそんなに増えない」と言いました。本当でしょうか。
8%の対象となるのは、飲食料品のほか定期購読の新聞です。もし飲食料品や新聞購読料が全く上がらなければその分消費者の負担は増えないかもしれません。しかし、消費税法では価格決定権は企業に任されており、8%が適用される飲食料品でも、値段を据え置く義務はありません。日本ハムや味の素、山崎製パンなどの大手食料品メーカーやキリン、サッポロ、サントリー、コカ・コーラなどの飲料メーカーは販売価格を引き上げるに違いありません。そのうえ、電車、バス、電話、水道、電気、ガス、日常品などの生活必需品は間違いなく値上げされるのですから、庶民の負担は嫌でも増えます。
一方、給料や収入が増えなければ消費者は買い控えをすることになります。その結果、事業者の売り上げは伸びず、経費は増えて中小事業者の利益は大幅に下がります。そこに、消費税の納税が追い打ちをかけます。10%になれば当然納税額がぐんと増えます。赤字でも納めなくてはならない消費税は事業閉鎖や倒産の引き金になります。経済は大混乱に陥るに違いありません。
―対象判別しにく
一口に飲食料品が8%の対象になるといっても、判別しにくいものがたくさんあります。原則として、飲食料品とは人の飲用や食用に供されるものをいいますが、お酒や外食は除かれます。ただしノンアルコールビールはアルコール度が1%未満であれば8%が適用されます。
栄養ドリンクのうち医薬品に該当するものは8%の対象になりませんが、医薬品に該当しないドリンク剤は8%が適用されます。同様にいわゆるサプリメントは8%が適用されます。また、飲食料品を売るときに使われる包装材料やビンなどの容器は8%の対象になりますが、贈答用の包装は別に料金を取れば8%の対象になりません。
すしやそばの出前は外食ではなく、単に飲食料品を届けるだけですから8%が適用されます。しかし、店内で食べるのは外食ですから8%は適用されません。では「お持ち帰り」や「お土産」はどちらなのでしょうか。前と同じように8%が適用されると思うのですが……。まだまだ区分不明のものが山ほどあり、国税庁がQ&Aや通達を出していますが、消曹著や事業者を混乱させることは間違いありません。
―「免税の放棄」強いる
一般の税率が10%で、「軽減」税率が8%という二つの税率になると、業者間の取引の際にも、何が8%の適用物品かをはっきりさせる必要があります。
納入業者は請求書に「軽減」税率が適用される物品と一般の税率が適用される物品を分けて記載しなければなりません。買い入れ業者はその請求書に基づした請求書・領収書でいて仕入れ税額控除を判断することになります。この請求書のことを「インボイス」といい、日本の法律用語では「適格請求書」と称します。
「適格」があるなら「不適格」があるはずです。「不適格請求書」は2年前の売り上げが1000万円以下の免税事業者が発行する請求書です。なぜ不適格かといえば、免税事業者の発行した請求書は仕入れ税額控除の対象にならないからです。今は免税事業者の発行した請求書・領収書でも仕入れ税額控除の対象になっていますから、「軽減」税率の導入によって免税事業者の立場は弱くなります。顧客や親会社から「お宅は課税業者じゃないの?課税業者じゃないなら取引しないよ」と言われるに違いありません。つまり、免税事業者は取引の輪から外されてしまうのです。
商売を続けるなら、やむなく税務署に課税事業者選択届出書を出すことになります。これを「免税の放棄」といい、税率の高いEU諸国では零細な事業者も課税事業者にさせられています。8%に据え置くことによって複数税率になり、インボイス・適格請求書が導入されることによって、零細な事業者は混乱に陥ります。
―マイナンバーに拍車
課税業者の届け出をしなくても、今のままでいけるのではないかと思ったら大変なことになります。課税業者を装って不正な請求書を発行すると罰則があります。罰則の内容はまだ公表されていませんが、フランスでは、偽のインボイスを発行したとき、その記載金額の50%が罰金として取られます。請求書を発行するのに罰則が付きまとうなどもつてのほかですが、適格請求書があれば仕入れ税額控除ができる、つまり、適格請求書が一種の金券になるため厳しく取り締まるのです。
また、適格請求書には登録番号を書くことになっています。法人の場合はすでに各法人に付されている法人番号を使う可能性がありますが、国税庁の案では最大16桁の範囲で付番するとしています。そして、登録事業者の番号などはインターネットで公表するとしています。免税事業者はこの登録番号がもらえないのです。
税理士会の中では、個人事業者が登録番号がもらえないのは気の毒だから、マイナンバーをそのまま登録番号に利用すべきだと建議しています。個人番号も法人番号のようにオープンにするというのです。とんでもない考え違いです。こういう動きも複数税率の導入、適格請求書方式の導入に伴う副産物です。
なお、適格請求書方式の導入は2023(平成35)年10月以後となっています。そして免税事業者からの仕入れについてはその後3年間は80%、さらにその後3年間は50%仕入れ税額控除ができるという経過措置があります。
【東京新聞】11月18日<社説>首相所信表明 「国難」と叫ぶのなら
物足りなさを感じた国民も多かったのではないか。安倍晋三首相の所信表明演説。北朝鮮情勢と少子高齢化を「国難」と声高に叫ぶのなら、国会の場でより詳しく、体系的に説明すべきであった。
野党が臨時国会の召集を要求してから五カ月近く。閣僚が今の顔触れとなった八月の内閣改造からすでに三カ月以上が過ぎている。衆院解散・総選挙を挟み、ようやく行われた首相演説である。
演説は約三千五百字。安倍首相の所信表明演説としては第一次内閣を含めて最も少ない分量だ。平成以降でも、小泉純一郎首相が二〇〇五年の「郵政解散」後の特別国会で行った三千二百十五字に次いで、二番目に少ない。
そもそも与党はこの特別国会を短い会期で終えようとしていた。野党の要求で結局三十九日間となったが、重要法案の提出は見送られ、提出法案の本数も限られる。二カ月後には通常国会が開かれ、そこで行う施政方針演説で説明をすればいい。短い演説には、そんな首相の気持ちが透けて見える。
首相は冒頭「緊迫する北朝鮮情勢、急速に進む少子高齢化。今、わが国は、まさに国難とも呼ぶべき課題に直面している」と述べ、衆院選で示された国民の負託に応える決意を強調してはいる。
しかし、北朝鮮情勢にしても少子高齢化にしても、現状をどう認識し、政権としてどう取り組むのかについて、詳しい説明がない。
鳴り物入りで行われたトランプ米大統領との会談については「日米同盟の揺るぎない絆を世界に示した」と語るだけで、どのような情勢認識の共有と対応策の検討があったのかは語らずじまいだ。
外交交渉はすべてを明かせないとしても国難と位置付ける以上、国民に可能な限り明らかにし、理解を得るのが筋ではないのか。
少子高齢化も同様だ。所信表明演説では「幼児教育の無償化を一気に進める」と語ったが、その内容は衆院選などで訴えた政策にとどまっている。
問題意識は共有するが、国民が聞きたいのは、踏み込んだ具体策と首相の決意ではないか。
これでは、国難と叫んで国民の危機意識を高めたのは、衆院選で支持を集めるための方便だったのか、と疑いたくもなる。
週明けから各党代表質問など本格的な国会論戦が始まる。首相は所信表明演説で語らなかった学校法人「加計」「森友」両学園の問題も含めて、謙虚な姿勢で、丁寧に語るべきだろう。