【毎日新聞】1月15日 豊洲有害物質 「これでは実験場だ」業者ら憤り
東京都の豊洲市場(江東区)の地下水モニタリング調査で環境基準値を大幅に超える有害物質が検出されたことが公表された14日の専門家会議(平田健正座長)。歯切れの悪い説明が続き、会場の築地市場(中央区)講堂に詰め掛けた市場業者ら約100人は「これでは(市場ではなく)実験場だ」「都は信用できない」などと憤った。傍聴者の質問は途切れず、会議は4時間半に及んだ。
「暫定値」「慎重に調べる必要がある」と繰り返す都の職員や有識者に対して発言の口火を切ったのは、移転推進派の伊藤裕康・築地市場協会会長。「これまで(のモニタリング)は惰性でやっていたのか。『大丈夫だろう』と安易な取り扱いをしていたんじゃないか」と、環境基準内に収まっていた過去の結果を疑問視。「なぜこうなったか包み隠さず知らせてほしいが、都に言っても適当にやるに決まっている」と不信感をあらわにした。
移転に慎重な立場の水産仲卸、山崎康弘さん(47)も「(過去の結果に)改ざんがあったと疑われても仕方がない。(豊洲市場に)行った後にこの数字が出なくて本当に良かった」と皮肉を込めた。
業者以外の傍聴者が「築地の方が豊洲よりも食品衛生上のリスクは高い」「地上(の汚染)はないから引っ越しても問題ない」と意見を挟む場面も。
一方、業者のいらだちは専門家会議にも向けられた。ある男性は「我々も(再調査に)専門家を推薦すべきじゃないか。その上で(豊洲に)行けると言われれば、安心できる」と発言。別の男性が「市場として移る場所じゃない。あそこはいくら(調査を)やっても無理だ」と突き放すと、同調して「無理だ、無理だ」とつぶやく業者もいた。想定外の結果に都の職員は「これでは都民の安心や納得を得られない。どうしたものか」と頭を抱える。
会場を後にした伊藤会長は報道陣に、あくまで年度内の移転判断を求めるとした上で、「早く(今回の結果の理由を)解明してほしい。風評(被害)とはこういう中で出てくる」と述べた。山崎さんは「僕らは安心も含めて魚を売っている。この状況で知事が安心宣言なんてできない。ならば(豊洲に)行くべきでない」と訴えた。【林田七恵、平塚雄太】
―「理由分からない」専門家会議
平田座長らが会議後に開いた記者会見の主な内容は次の通り。
平田氏 高い値が出たので、どう受け止めるかというのがある。これまで月1回開催してきた会議は来月休会にして調べ直す。理由が分からないので、私たち自身も調査に立ち会って改めて調べ、納得した説明ができるようにしたい。
--報告書のとりまとめは遅れるか。
平田氏 若干遅れると思う。
--見通しは。
平田氏 何とも申し上げられない。
--今回は暫定値。どう理解すればいいのか。
都の担当者 まだ確認中ということ。
--数値は信じられないということか。
平田氏 そういうわけではない。今までと大きくかけ離れているので、何が起こったか含め、検証したい。
--これまでと違う会社が調査した。数値が調査会社によって大きく変化することはあり得るのか。
平田氏 基本的には変わらないはず。ただ採水の仕方などはいろいろある。
--事前に検証した上で、ちゃんとした数値を出すべきではなかったか。
平田氏 本日に出すと告知しており、そのままの数値を出すべきだと考えた。オープンに行っている。
--過去の調査についても調べ直すのか。
平田氏 試料がないものもあるだろうし、そこまではできない。
【しんぶん赤旗】<主張>米軍関係経費負担―「思いやり」根底から問い直せ
安倍晋三政権が昨年末に決定した2017年度政府予算案の軍事費は過去最高の5兆1251億円になりました。大きな特徴の一つは、米軍「思いやり予算」、「米軍再編経費」、「SACO(沖縄に関する特別行動委員会)経費」の米軍関係3経費の合計も3985億円と過去最高になっていることです。これらの経費は、沖縄をはじめ全国各地で深刻な被害を振りまいている在日米軍の居座りに加え、基地や訓練の大幅な強化を進めるものです。日米安保条約に基づく地位協定でも日本側に負担義務のない経費であり、きっぱり廃止に踏み出すべきです。
―軍事費だけでなく
17年度予算案の軍事費に含まれる「思いやり予算」は、16年度当初予算比で26億円増の1946億円(歳出ベース、以下同じ)となっています。内訳は、▽米軍基地で働く日本人従業員の給与などの労務費1486億円▽米軍基地で使用される光熱水費247億円▽米軍基地の施設整備費206億円▽米空母艦載機の離着陸訓練移転費8億円―です。
「思いやり予算」を16年度から20年度までの5年間で総額9465億円(11年度~15年度に比べ133億円増)にするという新たな日米特別協定(16年締結)に基づくものです。特別協定の交渉で日本側は当初、「米軍再編経費」の急増などを理由に減額を提案したとされていますが、最終的には米側の増額要求をのまされる結果に終わりました。
一方、「米軍再編経費」も減るどころか、17年度の予算案は16年度比210億円増の2011億円で過去最高を更新しました。米軍への「思いやり」はとどまることを知りません。
「米軍再編経費」は、日米両政府が06年に合意した在日米軍再編計画のための費用です。沖縄県名護市辺野古への最新鋭基地建設や、空母艦載機部隊の移駐に伴う米海兵隊岩国基地(山口県岩国市)の増強など、米軍の海外出撃=“殴り込み”の一大拠点として抜本的に強化することが狙いです。
今月に入り、沖縄の民意に逆らい、工事の再開が強行されている辺野古の新基地建設費は17年度予算案で536億円、今年後半からの空母艦載機の段階的な移駐が発表された岩国基地の増強費は902億円に上っています。沖縄や岩国など各地で進む米軍基地の強化のために国民の血税が使われるのは許されません。
この他、沖縄の基地問題に関し日米両政府が1996年に合意したSACO最終報告を実施するための「SACO経費」は28億円で、米海兵隊の実弾砲撃演習の本土への移転費などが中心です。
―地位協定にも反する
「思いやり予算」や「米軍再編経費」、「SACO経費」は、「日本国に合衆国軍隊を維持することに伴うすべての経費」は「日本国に負担をかけないで合衆国が負担する」とした地位協定の規定(第24条)に明確に反しています。
今月20日に就任するトランプ新米大統領は選挙期間中、在日米軍の駐留経費を日本側が全額負担することにも言及しています。「日米同盟」を絶対視し、世界でも異常に突出している米軍関係経費負担を増やし続ける安倍晋三政権の対米従属姿勢を根底から改めることが必要です。
【現代ビジネス】1月15日 安倍晋三に受け継がれた岸信介の「民族主義」と「選民思想」―だから改憲そのものが自己目的化した ―岸の聖戦イデオロギー(魚住 昭 ノンフィクションライター)
そろそろ、岸信介とは何者だったかという問いに私なりの答えを出さなければならない。たぶんそれは、今の首相の安倍晋三とは何者なのかという問いにつながっていくはずだ。
岸は、巣鴨プリズンで記した『断想録』で1941(昭和16)年12月8日の開戦時の模様をこう振り返っている。
〈十二月八日星野内閣書記官長より臨時閣議召集の電話が掛つて来たのが同日の未明四時頃であつた。首相官邸に各大臣の顔の揃つたのがまだ明けやらぬ午前六時頃であつた。我等は始めて真珠湾攻撃、馬来半島上陸、シンガポール爆撃等の報道を聞いた。「真珠湾とは何処だ」と質問した某大臣があつた〉
岸は海軍大臣による真珠湾の戦果の報告を〈昻奮感激の中〉に聞いた。この後、宣戦の詔勅を審議する枢密院の会議に出席し、各大臣が詔書に〈副書〉したのは午前10時すぎだったと思うと述べ、こうつづける。
〈此副書に当りては余は手のかすかに震へるを覚えた。全く感激の極みであり、開闢以来未曾有の大戦に国運を賭する此の歴史的詔書に対する国務大臣の副書であつた〉岸には閣僚として開戦に反対すべきだったという悔いは微塵もない。無数の戦死者への負い目や責任感も感じられない。あるのは歴史的な詔書に署名したという胸の昻ぶりだ。
岸にとって〈大東亜戦争〉は〈聖戦〉であり〈侵略戦争と云ふは許すべからざる〉ことなのである。
この論理は、戦中に代議士32人が作った護国同志会(=実質的な岸新党)の「聖戦完遂」論と変わらない。戦後、そのメンバーらが岸派に結集した。
つまり岸の戦前と戦後は、思想においても人脈においても断絶していない。通奏低音のように一貫して流れるのは聖戦イデオロギーである。その辺りに彼が戦後政界で急速に復活できた秘密もあるのかもしれない。
それにしても、わかりにくいのは、岸ほど怜悧な人が聖戦イデオロギーに固執した理由である。それを知るために、少し堅苦しいが、次の『断想録』の一節を読んでいただきたい。岸はあの戦争の原因を、遠因と近因の二つに分けている。〈先進国の二世紀に亘る世界侵略に依る既得権益の確保を目指す世界政策が後進の興隆民族に課したる桎梏、之れを打破せんとする後進興隆民族の擡頭、之れ其の遠因たり。日米交渉に於ける日本の動きの取れぬ窮境、之れ其の近因たり〉後発の資本主義国である日本が、欧米の先進列強によるアジア支配を打ち破ろうとしていたことが遠因。日米交渉で米国側が無理難題を吹っかけてきたことが近因、つまり開戦の契機になったと言うのである。
岸は大東亜共同宣言(1943年)などを見よと言う。〈万民万邦をして其の所を得しむ〉という理想は言葉だけでなく誠意をもって実行すると約束したもので〈日本の存する限り、大和民族の此の地上に在る限り〉光り輝くとして、こう語る。〈而して吾々は過去に於て未だ曾て所謂侵略戦争を為したるの歴史を有せず。現在も然かり。又将来も断じてあるべからず〉―強烈な選民思想の末に岸の先進国vs.後進興隆民族という捉え方は、前回ふれた近衛文麿の「持てる国」vs.「持たざる国」論と基本は同じだ。両者の対立にのみ目を向けることで、その踏み台になるアジア諸国の痛みを無視している。
彼が近因として挙げた〈日本の動きの取れぬ窮境〉はそもそも満州事変以来の日本の中国侵略がもたらしたものだ。近衛は「僕は支那事変以来、多くの政治上過誤を犯した」と自らの過ちを認めて死んだが、岸にはそうした自省もみられない。
岸が言及した大東亜共同宣言に至っては、ここで言うのも恥ずかしくなる虚言の羅列である。「万邦共栄」「世界平和確立」などの美名のもとにどれだけ多くのアジアの人々が悲惨のどん底に叩き込まれたことか。
先日亡くなった三笠宮崇仁親王(昭和天皇の末弟)も、陸軍参謀として派遣された中国の戦地で「略奪暴行を行いながら何の皇軍か。現地の一般民衆を苦しめながら聖戦とは何事か」と軍幹部以下数百人を叱責した。
が、岸はそうした事実に目を向けない。幼時から長州という風土で叩き込まれてきた選民思想に回帰し、『断想録』に〈吾は日本人なり。日本人として生き、日本人として死なんのみ〉〈戦敗は日本国民が選ばれたるものとして立ち上るべき天の試練である〉と記す。
結局、3年に及ぶ巣鴨プリズン暮らしで岸を支えたのは吉田松陰ゆずりの民族主義だったのかもしれない。以前紹介した故船戸与一さんの『満州国演義』に松陰の言葉があった。
松陰は欧米への対抗策として大略「隙に乗じてカムチャッカ・オロッコを奪い、琉球を諭し、朝鮮を責めて貢を奉らせ、北は満州の地を割き、南は台湾・ルソンの諸島を収めて進取の勢いを示せ」と書き残した。
日本の近代はその通りのコースを歩み、1945年の破局を迎えた。船戸さんは物語のクライマックスで「結局は民族主義の問題だった」として登場人物に次のように語らせていた。
「(明治維新後も)松陰の打開策は生きつづけた。民族主義は覚醒時は理不尽さへの抵抗の原理となるが、いったん弾みがつくと急速に肥大化し覇道を求める性質を有する。日本の民族主義の興隆と破摧。たった九十年の間にそれは起こった」しかし敗戦で砕け散った民族主義もやがて息を吹き返す。その政治的象徴となったのが「憲法改正」を唱える岸だった。
岸が目指したのは単なる条文変更ではない。国家の基本法作りを米国の主導権に委ねた屈辱を歴史から消し去ることだ。だから条文変更より、改憲そのものが自己目的化する。
安倍晋三は政治的象徴としての岸の身代りだ。支持者たちは安倍の中に、岸が戦前から戦後に橋渡しした民族主義を見出し、喝采する。たとえ、それが〈急速に肥大化し覇道を求める〉歴史を繰り返す危険をはらんでいるとしてもである。
*参考:『岸信介-権勢の政治家-』(原彬久著・岩波新書)、『岸信介の回想』(伊藤隆ほか著・文藝春秋刊)
『週刊現代』2017年1月14・21日号より
【東京新聞】1月14日<社説>共謀罪 内心の自由を脅かす
話し合っただけで罪に問われる-。それが共謀罪の本質だ。準備行為で取り締まりができるテロ等組織犯罪準備罪の法案が通常国会に提出される予定だ。内心の自由を脅かさないか心配になる。
「行為を取り締まるのではなく、思想を取り締まるものだ」-。戦前の帝国議会である議員が治安維持法についてこんな追及をしたことがある。明治時代に刑法ができたときから、行為を取り締まるのが原則で、例外的に共謀や教唆、未遂なども取り締まることができた。
治安維持法はこの原則と例外を逆転させて、もっぱら思想を取り締まった。共謀罪も原則と例外の逆転の点では似ている。
犯罪の準備段階で取り締まる罪は実に六百七十六にものぼる。詐欺や窃盗でも対象になる。道交法違反なども含まれる。では、それらの犯罪の「準備」とは具体的にどういう行為なのだろうか。六百七十六の罪でその定義をするのは、ほとんど困難であろう。
むしろ、共謀罪を使って、捜査機関が無謀な捜査をし始めることはないのか。そもそも共謀罪は国際的なマフィアの人身売買や麻薬犯罪、マネーロンダリング(資金洗浄)などをターゲットに国連が採択した。
それら重大犯罪には既に日本の法律でも対処することができる。政府は新設を求めるが、もう国内法は整っているのだ。日弁連によれば、国連はいちいちそれらをチェックすることはないという。つまり共謀罪を新設しなくても条約締結は可能なのだ。
政府はむしろ二〇二〇年の東京五輪を念頭にテロ対策強化の看板を掲げている。だが、この論法もおかしい。例えばテロリストが爆弾を用いる場合は、企んだ段階で処罰できる爆発物使用共謀罪が既に存在する。テロは重大犯罪なので、法整備も整っているわけだ。政府は「テロ」と名前を付ければ、理解が得やすいと安易に考えているのではなかろうか。
合意という「心の中」を処罰する共謀罪の本質は極めて危険だ。六百以上もの犯罪の「準備」という容疑をかけるだけで、捜査機関は動きだせる。「デモはテロ」と発言した大物議員がいたが、その発想ならば、容疑をかければ、反政府活動や反原発活動のメンバーのパソコンなどを押収することもありえよう。
共謀罪は人権侵害や市民監視を強めるし、思想を抑圧しかねない性質を秘めているのだ。