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草の根交流ニュース
増税慎重論の陰に見え隠れする「消費税増税必要」論
2016年4月30日
【毎日新聞】4月25日「論点」 消費増税 延期の可否
 来年4月に消費税率を10%に引き上げるかが焦点となっている。安倍晋三首相は「リーマン・ショックや大震災級の事態でない限り引き上げる」と述べてきたが、参院選もにらみ、政府・自民党内で延期論が公然と語られている。熊本県などで大規模な地震が発生し、「増税判断に影響するのでは」との見方も浮上している。景気への配慮を優先するのか。財政再建に遅れは出ないのか。専門家に聞いた。

「凍結し成長で税収増を」 若田部昌澄・早稲田大政治経済学術院教授
 政府・日銀は大規模な金融緩和などに積極的に取り組んできたが、2014年4月に消費税率を8%に引き上げた結果、個人消費が落ち込んだままになっている。消費は本当に悪く、リーマン・ショック並みではないか。中国経済などの先行きも不透明感が強い。税率を10%に上げると不況に陥る懸念は大きい。熊本地震でますます増税どころではない。 政府は、増税の影響を覆すほどの力強さが日本経済にはないことを素直に認めるべきだ。一番望ましいのは消費税率を5%に戻すことだ。減税ができないのであれば最低でも増税を「凍結」すべきだ。「先送り」では意味がない。
(略)
 税収を増やすには政府が保有する資産の取り崩しも選択肢になるだろう。日本の財政は約1170兆円の巨額債務があると言われるが、約680兆円という巨額政府資産もある。政府は一等地に多くの土地を持っている。景気を良くして地価が上昇した時に企業に資産を売るなど活用の仕方はある。
 日銀は市場で国債を大量に購入している。マイナス金利政策で国債金利もマイナスになり、日銀から政府にお金が入る。最近の円高は日本の財政がある意味で健全な証拠だ。財政が悪い国の通貨がこんなに上昇するはずがない。
 消費税には低所得者ほど負担感が増す逆進性の問題がある。消費税は増税分をすべて社会保障費に充てることになっているが、弱者に負担の重い税を使って弱者を助けようというのは問題だ。
 高所得者に相応の負担を求めて富を再分配し、格差縮小を図るべきだ。相続税や固定資産税などを増税すべきだ。マイナンバー(社会保障と税の共通番号)制度で徴税もしやすくなるはずだ。【聞き手・横山三加子】

「景気回復待つべきだ」 菅野雅明・JPモルガン証券チーフエコノミスト
 高齢化で社会保障費の増加が続く中、財政再建を進めるには将来的に消費税率を最低でも20%に上げる必要がある。だが、今後数年で世界的に景気後退入りする可能性があり、日本経済もデフレに戻りかねない。熊本地震の影響も懸念される。来年4月の税率10%への引き上げはいったん延期し、タイミングを再考すべきだ。
 米国経済は景気回復が6年以上続いている。だが、ドル高や生産性低下で企業の収益率は低下している。景気循環の面からも今後2~3年で景気後退入りする可能性が高く、世界経済に波及するだろう。中国経済も銀行の不良債権問題などのリスクは残ったままだ。
 日本は消費税率を8%に上げてから2年たつのに消費が停滞し、企業の国内設備投資も広がりに欠ける。これまでの円安で好調だった企業収益もピークを越えた可能性が高い。消費税率10%時には軽減税率を導入するため、駆け込み需要の反動減は8%時より小さいとみられるが、それでも反動減は1年程度は続くだろう。
 これに世界的な景気後退が重なれば、日本の景気低迷の原因がすべて消費増税のせいだと受け止められ、税率を今後10%以上に上げることが一段と困難になるリスクがある。景気が再び回復局面に入ったのち、早いタイミングで10%に上げるべきだ。
(略)
 政府が巨額の借金を抱え、解消のめどが立たないままだと、国民に「財政がそのうち破綻して年金がもらえなくなってしまう」といった将来への不安が広がりかねない。家計が財布のひもを締め、消費の低迷が続く恐れがある。
 現在の社会保障の水準を維持するためにも将来的な増税は不可欠だ。政府は来年4月の増税を見送ったとしても、税率20%台を見据えた財政健全化計画を早期に示し、国民の理解を得る努力が求められる。【聞き手・小倉祥徳】

「政治生命かけ、予定通りに」 石弘光・一橋大名誉教授
 景気を下押ししかねないという理由で消費税率10%への引き上げ先送りが公然と語られている。夏の参院選が近づく中で強まる増税延期論は、景気や消費に悪影響を及ぼし、内閣の支持率を低下させかねない政策を避けたいという政治的な思惑が透けて見える。消費税の増税は景気を一定程度下押しするが、財政再建など重要な使命がある。政治家は覚悟を持って予定通り増税を行うべきだ。
 日本経済の状況は、増税に耐えられないほど悪いとは思わない。このところ企業業績は一定程度改善している。雇用環境もよくなってきている。増税は景気にある程度マイナスの影響を与えるが、その点は覚悟すべきだろう。過剰投資問題を抱える中国など世界経済に不透明感はあるものの、増税しても日本経済が失速するとは思えない。
 (略)
 増税慎重論者の中には、経済が成長すれば、自然に税収が増えて、その結果、財政再建を果たせるという考え方がある。しかし、財政再建と経済成長はそもそも両立するものではない。今の日本では財政再建が進むほどの税収増をもたらす経済成長はもはや期待できないからだ。
 人口が減少し、国内需要を大きく増やすことが難しくなっている状況では、実現可能な成長率は名目でせいぜい1~2%程度だろう。増税を行いつつ、社会保障などの歳出を削減するプログラムをしっかり立てないと、財政の悪化を食い止めることはできない。
  (略)
 少子高齢化が進み、社会保障費が増え続ける今、国民の中で増税は仕方ないという意識も醸成されつつあると思う。増税が再び延期されれば、今後の増税のタイミングは見通せなくなる。増税の判断を巡っては熊本地震の影響も懸念される。ただ、今回増税を行うかどうかは政治の信任に関わる問題でもあり、万難を排して行うべきだろう。【聞き手・工藤昭久】

【ニューズウイーク日本版】2016年04月25日(月)「田中秀臣街角経済学」
「財政危機」のウソと大災害―この20数年、災害に対しての経済政策は適切ではなかった
熊本地震の強い余震が続くなか、被害の全容は正確につかむのが難しい状況が続いている。避難生活者も屋内・屋外ともに10数万人いるといわれているが、その実数の把握も困難なままだ。これだけの強い地震が波状的に、しかも震源地を広範囲に移動しながら長期間続くことは、専門家も未知の領域だという報道にも接した。
 深刻な被害を招く大地震には、この20年以上で何度も日本社会は経験してきた。阪神淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災、そして今回の熊本地震。もちろんこれ以外にも数多くの地震があり、ひどい被害があった。もちろん地震だけではなく、自然現象に起因する様々な災害があり、社会に深刻な被害を残し、その影響は容易に消えることがない。
 他方で、このような激甚な災害に対して、この20数年、日本政府の経済政策的な対応は必ずしも適切なものとはいえなかった。特に20数年近い日本経済を振り回してきたのが、消費税の税率引き上げ問題である。消費税は日々の私たちが購入する様々な財やサービスに課せられるものであり、日本では一度引き上げられればいままで下がることがない硬直的で、また"恒常的"な増税手段になっている。実際には、イギリスでも類似の税制度の税率の引き下げを(景気悪化に対応して)行ったこともあり可変的なものだ。また不思議なことだが、消費税増税については、ここ20数年の大地震の歴史をみてみると、まるで災害に乗じるかのように増税が強く主張され、政治的に準備されている。
増税への誘導、事実上の金融引き締めは絶対に避けるべきだ
 またもうひとつの日本の経済政策のかく乱要因は、災害に当たっての日本銀行の「金融引き締めスタンス」の採用である。阪神淡路大震災のときは1ドル79円、東日本大震災でも1ドル76円の円高水準になってしまった。為替レートは異なる国の通貨の交換比率であり、基本的に各国の通貨量に比例する。日本経済の活動が震災で落ち込むときに、それに合わせるかのように通貨量を調整して縮小させてしまうと、急激な円高が起こりやすい。つまり事実上の金融引き締めスタンスになる。金融引き締めは被災地の経済活動はもちろんのこと、被災地を支える日本全体の活動を停滞させてしまう。
 現在の熊本地震をめぐる状況では、上記のような増税への誘導、事実上の金融引き締めは絶対に避けるべきことだ。だが、いまの日本経済では依然としてこの両者が大きな重荷になっている。ただ後者の日本銀行の「事実上の金融引き締めスタンス」は正確にいえば、過去の大災害の時にくらべれば、比較にならないほどの緩和基調ではある。また金融政策のスタンスは、インフレ目標を設定し、過去にみないほどの長期国債などの買いオペをすすめている。もちろん現状では、より一段の金融緩和を行う余地があり、それが今後も論点にはなるだろう。
より深刻な問題は、政府側の財政面での政策にある。大災害に際して、または日本経済の低迷に対しても大胆な財政政策の出動が機動的に行われてこなかった。いまも消費税増税のシナリオが設定され、それが放置されればやがて熊本地震で被災された方々、またはそれ以前の大災害でいまだに困難な状況にある人たちを深刻な経済状況に追いやってしまうだろう。
 なぜ深刻な大災害でも政府は事実上の「増税スタンス」を崩さないのだろうか。その理由のひとつとして「財政規律」というマジックワードが登場する。簡単にいえば、日本の「借金」は1000兆円をはるかに超える金額であり、これ以上の財政の悪化をさけるためには、「野放図」な財政拡大政策は採用できない、という考え方だ。つまり「財政危機」を回避するために「財政規律」が必要だ、という考え方である。これが大災害時での「増税スタンス」を不可避なものにしている。
大災害時の「増税スタンス」は、まさに典型的な「誤った経済思想」だ
 だが、このような大災害時の「増税スタンス」は、まさに典型的な「誤った経済思想」であり、多くの政策当事者たちを惑わしている「既得観念」と呼ばれる偏見である。
 (略)
 大災害にあたって必要なことは、財政政策と金融政策の大胆な採用によって、経済全体(名目GDP、やがては実質GDPの拡大に至る経路)をしっかり立て直すことによって、経済面からの支援を行うことだ。まさにいま「増税スタンス」との戦いが必要だ。

【しんぶん赤旗】4月26日 日本企業の税逃れ告発―タックスヘイブン利用“子会社の99% 実態なし”の例も―大門議員追及
日本企業が英領ケイマン諸島につくった子会社の99%が、事業実態のないペーパーカンパニーだ―。日本共産党の大門みきし議員は25日の参院決算委員会で、タックスヘイブン(租税回避地)を利用した税逃れの実態を告発し、抜本的な課税強化を求めました。
大門氏は、タックスヘイブン利用者の情報を暴露した「パナマ文書」にふれながら、日本企業が課税逃れを目的に法人税率20%未満の国などにつくったペーパーカンパニーが増え続け、4千社を超えたと指摘しました。
事業実態がなければ現地の税率ではなく親会社の所得に合算して課税するタックスヘイブン税制があるものの、親会社が株式保有を50%以下にすれば対象外になるうえ、ペーパーカンパニー自体がすべて把握されていないと強調。「抜け道がいくらもある」と批判しました。
そのうえで、日本企業による証券投資額が63兆円で米国に次いで2番目に多いケイマン諸島では、把握されているだけでも子会社531社の99%がペーパーカンパニーだと確認。さらに、同島での投資収益約2兆8千億円のうち課税対象となったのはわずか1755億円にとどまっていると国税庁の資料をもとに示し、「あまりに落差がある。国際的にも課税強化の方向は共有している。踏み込んだ対策が必要だ」と迫りました。
麻生太郎財務相は国際的な課税逃れ対策の取り組みを説明し、「この対策を現実に実行させるのが日本の役割だ」と答えました。