生活保護費の違法減額 失政直視し全員に補償を(「毎日」)、非核三原則 「国是」を短慮で見直すことは許容できない(「東京」)
2025年11月20日
【毎日新聞】11月20日<社説>生活保護費の違法減額 失政直視し全員に補償を
生活保護費を不当に減額した反省の上に立ち、国は受給者全員へ全額を補償する必要がある。
2013~15年に実施された生活保護基準の引き下げを最高裁が違法と認定したのを受け、政府は補正予算案に受給者への補償費用を盛り込む方針だ。だが、国の対応には疑問を抱かざるを得ない。
6月の判決は、国が前例のない手法で物価下落分に相当する減額幅を決め、専門家にも諮らなかった点を裁量権の乱用だと断じた。
このため厚生労働省は、別のデータを使った再計算を、新たに設置した専門家会議に求めた。その結果、引き下げ幅は縮まるものの減額自体は妥当だったとの結論を得た。これに従えば、受給者には当初の減額分と見直し後との差額が支給されることになる。
しかし、再計算の結果を遡及(そきゅう)して適用することは、法が禁じる「紛争の蒸し返し」に当たるのではないか。敗訴が確定した国には、原告の被害を回復する義務がある。ただちに謝罪し、減額した分を全額支払うべきだった。
政府は裁判を続けた負担を考慮し、原告に限って別の名目で全額支給することも検討している。
ただ、どの受給者も違法な減額で苦しい生活を強いられてきた。原告か否かで差を付ける理由はなく、全員に同じ対応をするのが筋だ。不平等な扱いをすれば新たな訴訟が起きる可能性もある。
受給者全員への補償には最大3000億円かかると見込まれる。原因は国の失政にあることを忘れてはならない。受給者がバッシングにさらされないよう、丁寧に説明することが求められる。
過去最大の基準引き下げの背景には、12年の衆院選で政権に復帰した自民党が「保護費の1割カット」を公約に掲げていたことがある。その経緯を踏まえれば、全面解決を図るのは政治の責務だ。
高市早苗首相は今月の国会答弁で「深く反省し、おわびする」と初めて謝罪したが、判決から既に5カ月近くになる。速やかに対応しなければならない。
憲法が保障する生存権を具現化したのが生活保護制度である。今回の問題を教訓に、時の政権の意向や官僚のそんたくによってゆがめられることのない仕組みの構築が急がれる。
【東京新聞】11月19日〈社説〉非核三原則 「国是」を短慮で見直すことは許容できない
高市早苗政権が核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則の見直しを検討している。日本は唯一の戦争被爆国として非核三原則を国是に位置付け、核兵器の廃絶を目指す平和国家の礎にしてきた。時の政権の短慮で見直すことは許容できない。
非核三原則は1967年に当時の佐藤栄作首相が国会で表明し、累次の国会決議で「国是」として確立した。
日本は米国の「核の傘」の下にあるが、2022年の国家安全保障戦略など安保3文書は「非核三原則を堅持するとの基本方針は今後も変わらない」とし、2025年版の防衛白書も「国是としてこれを堅持している」と明記した。
高市首相は今国会で、安保3文書の改定方針を巡り、非核三原則を堅持するかどうか問われ「申し上げる段階ではない」と明言を避けた。自民党は週内にも3文書改定に向けた議論に着手し、三原則見直しも議題となる見通しだ。
首相は三原則のうち「持ち込ませず」の見直しを就任前から主張してきた。国会議員の持論と国家として積み重ねてきた原則とは重みが違うことを理解すべきだ。
「持ち込ませず」を巡って2010年当時、民主党政権の岡田克也外相が、米国の核搭載艦の寄港を認めなければ日本の安全が守れない事態が生じた場合は「時の政権が命運を懸けて決断し、国民に説明する」と国会で表明した。高市政権もこの答弁を引き継ぐという。
ならば「持ち込ませず」をあえて見直す必要があるのか。米国の核戦力の主力は潜水艦に搭載する核弾頭であり、日本に寄港したり領海にいなければ抑止力が低下するとの理屈は説得力に乏しい。
非核三原則見直しは周辺国に核戦力強化の口実にされかねず、国際社会に核軍縮・廃絶を唱えてきた日本外交への信頼も損なう。
核兵器が80年間使われなかったのは核抑止の結果ではなく、広島・長崎の被爆者や遺族らが被爆の惨状を世界に訴え、核は使えない兵器との認識を広めたからだ。その延長線上に、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)や日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞がある。
高市政権が取り組むべきは非核三原則の見直しでなく、非核三原則を貫き、国際社会に向けて「核兵器のない世界」の実現を働きかけることにほかならない。

