自維の衆院定数削減案 制度ゆがめる党利党略だ(「毎日」)
2025年11月17日
【毎日新聞】11月17日<社説>自維の衆院定数削減案 制度ゆがめる党利党略だ
政権の党利党略で選挙制度をゆがめれば、民主主義が揺らぐ。
自民党と日本維新の会が、衆院議員定数の1割削減案について協議を始めた。「今臨時国会に法案を提出し、成立を目指す」との連立合意に基づく。
自維両党の連立交渉で唐突に浮上したものだ。維新は企業・団体献金の禁止方針を掲げていたが、自民の反対論に配慮して扱いを先送りした。代わりに、連立の「絶対条件」として強く要求したのが定数削減だった。
ただ、削減の必要性や根拠ははっきりしない。今の衆院定数は戦後最少で、他の主要国に比べても少ないとされる。
現行の選挙制度は、民意の集約と反映のバランスを取る仕組みだ。小選挙区は当選する1人に民意が集約される一方で、落選候補への支持は「死票」となる。票数に応じて政党に議席配分される比例代表がそれを補完し、少数意見を反映させる。
維新は比例だけを50議席減らすよう主張する。その場合、比例議席を中心とする中小政党ほど打撃を受ける。自維のように小選挙区議席が多い政党には有利に働く。
維新案を昨年の衆院選にあてはめた試算では、今は少数与党の自維が過半数を占めることとなる。これでは、「自分の身は切らない改革」ではないか。
一方で、小選挙区を削減するとしても、人口の少ない選挙区が減らされ、地方の声が国政に届きにくくなる。いずれにせよ少数意見の切り捨てにつながる。
そもそも衆院では、与野党協議会が既に設置され、選挙制度のあり方を議論している。「1票の格差」への対応などについて、国勢調査の結果がまとまる来年に結論を出すことを目指す。導入から約30年がたつ現行制度の抜本改革も視野に入れる。
議会政治の根幹にかかわる問題だ。与党が強引に進めれば禍根を残す。あるべき全体像を丁寧に議論することから始めなければならない。

